VWが告げた、自動車メーカーの終わりの始まり

VWの排ガステスト不正問題、全世界に拡大…1100万台の可能性も | レスポンス

一報を聞いた時、耳を疑った。だってVWですよ。そんじょそこらの自動車メーカーじゃない。世界中の自動車メーカーがベンチマークしているゴルフを作り、革新的な設計手法(MQB)をいち早く世に出した、あのVW。クラスいち優秀な学級委員のあの子のカンニングが発覚した衝撃、と言ったら伝わるだろうか。また「経営陣は知りませんでした」話が出ているが、無理無理。ソフトウェアなんて要件決めて設計してコード書いてテストして、そしてそれぞれにレビューがあるんだから、普通ならスルーできるはずがない。「要件どおり」作ったんでしょ多分。
 
ところで、そもそも大気汚染に関していちばん「悪」なのがNOxなのかCO2なのか(PMなのか)は、科学的な命題のように見えて実は最終結論が明確ではない。排ガスの規制対象物質や規制値は、極めて政治的な「決め」によって決まっている(少なくとも素人目にはそう見える)。そうでなければ、ディーゼル中心の欧州でNOx規制が緩く、ガソリン中心のアメリカ・日本で厳しいというような差が出るはずがない(大気はどこの国だって基本変わらないんだから)。それを踏まえ、この事件がアメリカ発信であることに注目したい。

時代の転換点となるイベント

以前佐藤優の本に「時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪する。そのために国策捜査が行われる」といったようなことが書かれていた記憶がある。今回の事件の影響は「VWの業績」とか「ドイツ経済」とかのレベルに止まらない。「自動車メーカーみんなのベンチマーク」だったVWの、環境性能に直接関わる不正である(会計上の不正だった東芝が可愛く見えるレベル)。僕には、自動車産業全体が大きな転換点を迎えていることを象徴するため、起きるべくして起きた事件という気がしてならない。これは「VWトヨタか」とか、「メガ部品メーカーが自動車メーカーを超える」とか、そういうレベルの話ではない。自動車開発の主導権が、これまでの自動車メーカーから、全く新しいプレーヤーに移るという大転換だ。その中心にいるのが、テスラでありGoogleXである。Appleも虎視眈々とこの巨大市場を狙っている。そしてこれらの企業は皆アメリカの、それもシリコンバレー発祥の企業だ(独SAPはここにはいない)。
 
自動車には非常に多くの部品が使われ、複雑な機構を持つがゆえに、非常に高度な開発・生産技術が必要とされてきた。確固たる理念・哲学を持ち、「クルマ作り」をリードしてきたのは、やはりドイツだろう。ダイムラークライスラーとの統合・離散を経て見た目も含めすっかり軟派になってしまった感があるが、VWは近年買収による急速な規模拡大や、経営陣の対立等はあったが、クルマ自体は質実剛健な職人気質と高品質のイメージを保っていた。それが今回の事件で一気に崩壊したわけだ。「クルマ作りには熟練の技が必要だというけれど、ヤツらがやっていることを見ろよ。哲学なんて幻想だ。あいつらに任せる理由はもはやないぜ」てなところか。
 
まとめると、アメリカはこれまでの「クルマ作り」をリードしてきたドイツ企業の化けの皮を剥ぎ、(デトロイトを通り越して)シリコンバレーに主導権を移す機会を虎視眈々と狙っていた。規模拡大で脇の甘くなったVWがその格好のターゲットとなり、今回の事件が起きたということになる。
以上、勝手すぎる推論でした。
それにしても、販売台数世界一ってそんなに魔力があるのかな。もう「かつてのVW」は事実上この世からなくなってしまったのだと思うと、すごく寂しい。